都心で発生した熱が
海風で運ばれる様子を解析
この観測網は2004年から設置し始め、2006年から本格的に気温観測を行っている。前述したヒートアイランド現象の詳細な気温分布を明らかにしたのも、その成果の1つだ。
また、観測網のデータによって、ヒートアイランド現象と風の相互作用に関する研究も進めている。
「夏の日中は内陸部のほうが気温が高くなりやすいのですが、その理由の1つとして、都心で発生した熱が海から入ってくる風によって内陸のほうへ運ばれているのではないか、と以前からいわれていました。しかし、理論上あるいはシミュレーション上ではそうなるということであり、観測で実証されているわけではありません。
私たちが展開している観測網なら、高温の空気の動き方をおおよそとらえることができます。そこで、研究室の大学院生が、積み重ねた観測データを基にして、熱の運ばれ方の解析に取り組んでいます」
緑地で気温が低くなる
『クールアイランド現象』も研究
気候学研究室では、ヒートアイランド現象の研究の一環として『クールアイランド』と呼ばれる現象についても研究している。
「ヒートアイランドの中に大規模な緑地が存在すると、その場所や緑地周辺の気温が低くなる現象があり、これを『クールアイランド』と呼んでいます。このクールアイランドは、ヒートアイランドを緩和するものとして注目されていて、私たちもいくつかのテーマを設けて研究を進めています。
その1つは、クールアイランドと緑地の規模との関係です。緑地の規模によって周囲との温度差がどのように違うのかを、複数の規模の異なる緑地について調べています。
また、クールアイランドは、日中は地面からの水分の蒸発、植物からの水分の蒸散などによって気温が低くなるのですが、そういう気温の低い空気が日中の海風で、どのように周囲に押し出されるかの観測もしています。
夜になると、緑地の中に溜まった冷たい空気が、風速1メートル以下ぐらいの非常にゆっくりとした速度で、ジワリジワリと四方八方へ出ていく現象があります。これを『にじみ出し現象』と呼んでいますが、にじみ出し現象が、どのくらいの範囲で、どのくらい気温を低下させる効果があるのかを解明することにも取り組んでいます」
緑地で冷やされた空気の移動を
気温観測でとらえる
クールアイランドの研究も、やはり気温分布の観測が基本になる。そこで、気温を観測するために、緑地の中に何か所か気温の記録計を取り付ける。そして緑地の周囲に、たとえば百葉箱を備えた小学校などがあれば、その百葉箱に記録計を設置させてもらう。また、緑地から伸びる道路の街路灯などに、100メートルあるいはもう少し短い間隔で記録計を取り付ける。さらに、もっと細かい気温のデータを集めるために、観測者が緑地の周辺で気温を測ることもある。
「設置した記録計だけでは、なかなか細かいことまでわからない場合もあるので、観測する人が徒歩や自転車で移動しながら、気温を測ることもあります。そういうときは比較的敏感な温度計を使うので、各地点の気温は1〜2分で測ることができます。
そうすると、たとえば冷たい空気は比較的広い道路沿いには入っていきやすいけれども、路地裏にはあまり入っていかない、といったようなことまでとらえることができるのです。
現場で観測するのは、都市気候の研究でいちばん基礎になることでもあり、建物の建ち並び方を見たり、非常に弱い風の流れなどを感じたりしながら、いろいろ考えて観測し、研究を進めていくことが大切なのです」
このようにして、数か月から1年くらい観測を続けて、継続的なデータを収集する。さらに、そのデータと各時点での風向、風速のデータを組み合わせて、日中の空気の押し出され方、夜の空気のにじみ出し方を解析していく。
現在、クールアイランドについては、都内の3か所の緑地を対象にして、大学院生や学部生が研究に取り組んでいる。
《つづく》
(次回は都市の短時間強雨についてです)