経済が成熟した時代には
投資機会を見逃さないことが大切
池尾先生は、市場型金融の拡大が望まれる理由の1つに、前述した日本経済が「高齢化」しているという問題があると話す。
「日本だけではありませんが、先進国の経済は成熟化が進んでいます。そうなると、新しい産業や企業が次々に成長するといったことは少なくなるので、投資チャンスが少なくなってきます。
この話は、エラーという観点から考えると分かりやすいかもしれませんね。
エラーには2種類あります。1つは、投資すべきでないものに投資してしまうエラー。もう1つは、投資すべきものに投資をしないエラーです。
戦後、日本経済の復興期には投資するチャンスはたくさんありましたが、お金がなかった。こういう時代には、お金を慎重に使うことが大切なので、投資すべきでないものに投資するエラーを避けなければいけません。そういうのを見きわめるのは銀行が得意なのです。
しかし、いまのように、お金はあるのに投資するチャンスが少ない時代には、投資すべきものを見逃してしまうエラーを避けるべきです。そのためには、銀行の1つの価値観だけで判断するのではなく、さまざまな評価尺度を持つ投資家が参加している資本市場に判断をゆだねたほうがエラーを少なくできるのです」
銀行全体の規模が大きすぎるため
利益が上がらない構造に
日本では、金融システムの中で銀行が大きな役割を果たしているということだが、その銀行の現状や課題についても話をうかがってみた。
「銀行について考えるときには、金融システムレベルの問題と、銀行自体の問題に分ける必要があります。
システムレベルの問題としては、オーバーバンキングといわれる状態になっていることがあります。これは、銀行全体の規模、つまり銀行が持っているお金の量が大きすぎるという意味です。
企業などが銀行から借りたいと考えるお金の量に対して、銀行全体が持っているお金の量が大きすぎるのです。
借りたい量よりも貸せる量のほうが大きいので、銀行同士が競争することになり、銀行は利益が上がらない構造になっています」
ここ10年ぐらい、銀行の合併が相次いで、銀行の数は減っているが、それでは問題は解消しないのだろうか。
「たしかに、昔に比べると銀行の数は減っています。しかし、たとえば2つの銀行が合併して1つになっても、それは名目上の数が減るだけで、持っているお金の量は変わらない。そういう状態がいまも続いているのです」
メガバンクの活路を開くのは
資本市場や海外での事業拡大
では、全体の規模が大きすぎる金融システムの中で、個々の銀行はどのような方向に進んでいけばいいのだろうか? 現状のままでいいはずはない。
「小規模な銀行の場合は、ニッチといって、ほかの銀行が気づかないようなすき間の需要を開拓する方法があります。実際に、地域の小規模な銀行のなかには、ユニークな経営で業績を伸ばしているところがあります。
問題はメガバンクと呼ばれる大手の銀行です。メガバンクは非常に規模が大きいので、ニッチをねらっても業績を伸ばすことにはつながりません。
今後の方向性として、1つは先程お話しした市場型金融のほうに出ていって、そこで事業を拡大することが考えられます。
もう1つの方向性は海外ですね。アジアを中心に海外に出て事業を展開することです。これまで銀行の海外進出は、日本のメーカーが海外に出ていくのについていって、日系企業にお金を貸し付けることが多かったのですが、最近は現地企業にもお金を貸し付けて事業を拡大するようになっています。
ただ、メガバンクのうち最も積極的に海外進出していたところが、サブプライムローン問題でいちばん大きな打撃を受けましたから、その辺りは難しい面もありますね」
【用語解説】
*3 資本市場:資本市場とは、企業が株式や社債(一定期間後に購入額に利子を付けて支払うもの)などを発行して投資家から資金を調達する取り引を行う場のこと。
《つづく》
(次回は最終回「経営者の行動をチェックするコーポレート・ガバナンス」です。)